不妊治療が医療保険適用になったことによる変化とは?
none
2024.07.22
2022年4月より不妊治療が公的医療保険の適用対象になりました。
関係学会が規定するガイドラインで有効性・安全性が認められた人工授精や体外受精などの治療が保険適用となり、従来に比べて患者様の費用負担が大幅に軽減されました。
今回のコラムでは、医療保険適用になったことにより、不妊治療にどのような変化が起きているかを解説したいと思います。
不妊治療の保険適用の範囲と条件
不妊治療は大きく分けて「一般不妊治療」と「生殖補助医療」に分けられます。
「一般不妊治療」には妊娠をしやすいタイミングを狙って性交を図る「タイミング法」と、女性の排卵に合わせてパートナーの精子を子宮内に注入する「人工授精」があります。
「生殖補助医療」には、卵巣から卵子を取り出し、精子を体外で受精させ、妊娠しやすい時期に受精卵を子宮に戻す「体外受精」と、顕微鏡で拡大視しながら受精の手助けを行う「顕微授精」があります。
2022年4月までは、このうち「タイミング法」のみが保険適用の対象でしたが、2022年4月からは、人工授精と生殖補助医療(体外受精・顕微授精)にも保険が適用されるようになりました。
- 一般不妊治療=タイミング法、人工授精
- 生殖補助医療=採卵、採精、体外受精、顕微授精、受精卵・胚培養、胚凍結保存、胚移植
生殖補助医療は、上記に加えて行われることのあるオプション治療についても保険適用されるものがあるほか、先進医療として保険と併用できるものがあります。
当クリニックで行っている先進医療については、また別のコラムでご説明いたします。
保険適用を受けるための条件
保険適用内で不妊治療を受けるためには幾つかの条件を満たすことが必要です。条件は以下の通りとなります。
対象年齢
治療開始時の妻の年齢が43歳未満
保険適用回数
40歳未満:1子ごとに胚移植6回まで
40歳以上43歳未満:1子ごとに胚移植3回まで
婚姻関係の確認
以下のいずれかに該当すること
- 婚姻関係にある
- 事実婚である。事実婚の場合は、以下の確認が必要
①重婚でない(両者がそれぞれ他人と法律婚でない)こと
②同一世帯であること(同一世帯でない場合には、その理由について確認する)
③治療の結果、出生した子について認知を行う意向があること
不妊治療の保険適用による変化
さまざまな面での負担軽減
まず、一番大きなメリットは、保険適用により、患者様の費用面での負担が減ったことです。自費での治療費に比べて、保険適用範囲内であれば、費用は約3分の1以下におさえることができます。
当クリニックの患者様の中にも、「経済的に治療が始めやすくなった」「支払う医療費が少なくなった」という感想が大変多いです。
さらに、費用面の負担軽減と同時に、「気持ちの面で治療が始めやすくなった」という心理面の負担軽減を挙げる患者様も多くいらっしゃいます。
当クリニックでも開院当時は、保険治療と自由診療が約半数ずつの割合でしたが、今では、医療保険での治療を行っている患者様が7~8割と目に見えて増えてきています。
治療年齢の低年齢化
対象年齢が43歳未満となったことに伴い、治療年齢が低くなっている傾向が見られます。
特に40歳未満であれば、1子ごとに胚移植6回までが保険適用になりますが、40歳になるとその回数が半減することから、40歳になるまでに治療を開始される方が大半です。
また、「自由診療=病気と認められていない」と捉えられる傾向があり、これまで不妊治療で通院されていた人の中には、治療をすることに後ろめたさを感じる、仕事を休んで通院することを申し訳なく感じるといった患者様も多くいらっしゃいました。
公的医療保険での治療となったことで、「不妊は病気の一種であり、治療の対象である」ということが社会全体に広がり、その点から、若い年齢から治療を始める人の増加につながっていると考えられます。
治療ステップの高速化
不妊治療は一般的に、(1)タイミング法(2)人工授精(3)体外受精というステップを踏んで治療を行いますが、治療のステップを上げるのに、例えば、保険適用以前は平均6ヶ月かかっていたとしたら、今は約半分の3ヶ月程度で次のステップに進むという患者様が多くなっています。治療費と心理的な負担減から、より高度な治療へと進むスピードも早くなってきています。
不妊治療が医療保険適用になったことから、費用面、心理面の負担が軽減され、不妊治療のハードルが大きく下がりました。まだ課題は残っているものの、患者さんにとってはおおむねメリットのある制度といえます。
この変化は、個々の家庭だけでなく、社会全体に対しても長期的な利益をもたらすことが期待されています。